
ALS患者様のなかには、発症原因がわからず、不安や戸惑いを抱えている方もいらっしゃるでしょう。
そのような状況で、「特定の食品や調味料がALSの発症原因となる」といった情報を見聞きすると、食べ物の選び方に悩んでしまうかもしれません。
そこで本記事では、「ALSの発症に食べ物は関係している?」という疑問にお答えし、発症の原因を詳しく解説します。
ALSへの理解を深めて、適切なケアにつなげるために、ぜひご一読ください。
目次
ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは?
ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは、身体を動かす神経(運動ニューロン)の機能が低下し、筋肉が徐々にやせていく疾患のことです。
運動ニューロンは、脳からの指令を筋肉に届けることで、身体を動かす役割を担っています。
ALSを発症すると、運動ニューロンに異常が発生し、脳から筋肉に命令が伝わらなくなってしまいます。
その結果、手足・のど・舌の動きに必要な筋力が低下することで、食べ物を飲み込めなくなる、また呼吸しにくくなるといった症状が現れるのです。
なお、ALSを発症しても、身体の感覚や視力・聴力、内臓の機能には影響しないことが一般的です。
ALSの原因となる食べ物はある?
現在のところ、特定の食べ物がALSの発症原因になるという科学的な根拠はありません。
ALSを発症する原因にはいくつかの仮説がありますが、そのどれもが解明されていないのが現状です。
なお、こうした仮説の一つとして、うま味調味料に含まれるグルタミン酸が発症に関与していると考える説もあります。
しかし、その説にも確実な根拠はなく、ALSとの関連は不明です。
ALSを発症する主な原因
先述の通り、ALSを発症する原因は明らかになっていません。
しかし、研究が進むなかで、いくつかの要因が神経系の異常に関係している可能性が指摘されています。
本項では、以下の5つの仮説を解説します。
【ALSを発症する主な原因】
- 遺伝子の異常
- TDP-43タンパク質
- グルタミン酸による神経毒性
- 酸化ストレス
- 全身の炎症
遺伝子の異常
ALS患者の5~10%ほどは、両親や祖父母からの遺伝による発症と考えられており、これを家族性ALSといいます。
家族性ALSでは、30種類を超える原因遺伝子の存在が報告されています。
なかでも多く見られるのが、“スーパーオキシド・ディスムターゼ(SOD1)”とよばれる遺伝子の変異です。
通常、SOD1は活性酸素を処理する役割を果たしていますが、遺伝子に異常が生じると、運動ニューロンの細胞を死滅させることがあるのです。
一方、ご家族にALSの発症歴がない方でも、活性酵素の異常で運動ニューロンに障害が生じることがあるため、遺伝が確実な原因とは言い切れません。
関連記事:【ALS確率】ALSの生涯リスクを徹底検証!知られざる発症率
TDP-43タンパク質の蓄積
ALSの発症には、TDP-43とよばれるタンパク質が蓄積し、神経細胞を傷つけることも関係していると考えられています。
TDP-43は本来、細胞の核に存在していますが、なんらかの原因で外に漏れ出ると異常な固まりが形成されることがあります。
この固まりが運動ニューロンをはじめとする神経細胞にダメージを与えて、細胞を死滅させてしまうのです。
さらに、細胞内のタンパク質のバランスが崩れると、神経細胞全体の機能が維持できなくなります。
その結果、筋肉への指令がうまく伝わらず、筋力の低下や筋萎縮といったALSの症状を引き起こすと考えられています。
グルタミン酸による神経毒性
グルタミン酸の過剰な放出も、ALSの発症に関与するとされる原因の一つです。
脳から発せられる「手足を動かせ」といった命令は、神経細胞である運動ニューロンを介して筋肉に伝えられています。
運動ニューロン同士のあいだには“シナプス”とよばれるすき間があり、シナプスではグルタミン酸が情報を媒介する役割を担っています。
このグルタミン酸が過剰に放出されると、運動ニューロンに過度な負担がかかり、やがて死滅してしまうのです。
その結果、脳から筋肉への命令が伝わりにくくなり、手足や口まわりの動きに違和感が生じるようになります。
酸化ストレス
身体の中で酸化反応が過剰に生じると、運動ニューロンがダメージを受けて、ALSを発症させるという仮説もあります。
食べ物から取り込んだ栄養素からエネルギーを作るためには、酸素で栄養素を燃やす、つまり酸化させることが必要です。
酸化に使用された酸素は、活性酸素とよばれる、酸化能力が非常に高い状態になります。
通常、活性酸素は抗酸化能(活性酸素を除去する能力)により、一定の量に保たれています。
しかし、なんらかの原因で活性酸素の産生と除去のバランスが崩れると、酸化が過剰に進み、運動ニューロンのDNAやタンパク質、脂質に障害を与えてしまうのです。
このようにして、運動ニューロンが十分に機能しなくなり、身体の動きに支障が出るとされています。
全身の炎症
ALSの発症には、全身の炎症も関連している可能性があります。
身体の中で炎症が起きたり、組織細胞に障害が生じたりすると、CRPとよばれるタンパク質が増加します。
ALS患者のなかで、CRPの数値が高い方は、低い方に比べて生存率が低下していることが、近年の研究で明らかになっているのです。
このCRPが高いからALSに発症するということではないので注意をしてください。
参照:筋萎縮性側索硬化症患者における急性期タンパク質の上昇は末梢炎症と疾患の重症度を反映している
ALSの症状
ALSの症状やその進行スピードには、個人差があります。
ここでは、ALSの主な4つの症状を詳しく見ていきましょう。
【ALSの症状】
- 構音障害・嚥下障害
- 呼吸困難
- 手足の筋力低下
- 認知症の合併
構音障害・嚥下障害
ALSを発症すると、のどの筋力が弱まり、発音が難しくなります。
初期には、ろれつが回らず、ラ行やパ行がうまく発音できないといった症状が現れ、中期・後期には会話に支障をきたすようになります。
口の麻痺が進行すると、目の動きや文字盤を使用したコミュニケーションが必要となるでしょう。
また、水や食べ物の飲み込みが難しくなり、誤嚥性肺炎の発症リスクも高まります。
嚥下障害が進行すれば、生命維持のために、経鼻胃管や胃ろうで流動食を摂取することとなります。
呼吸困難
のどの筋力が低下し、自力での呼吸が難しくなることも、ALSの主な症状の一つです。
ALSによる呼吸障害は突然生じるものではなく、徐々に進行すると考えられています。
初期には、言葉が途切れることが多くなる、夜間に呼吸が苦しくて何度も目覚めるといった症状が現れます。
呼吸機能の低下に伴い、日常の動作で息切れや呼吸の苦しさが生じるでしょう。
さらに症状が進行し、自力での呼吸が難しくなれば、人工呼吸器が必要となる場合もあります。
手足の筋力低下
ALSの初期から現れる症状として、手足の筋肉の萎縮も挙げられます。
多くの場合、四肢のいずれかの筋力が低下し、ほかの部位へと症状が広がります。
手指の筋力が弱まると、物を手でつかむ、腕を肩から上にあげるなどの動作が徐々に難しくなるでしょう。
また、足の筋力が低下した場合、手すりがなければ歩けない、椅子から立ち上がれないといった状態になるため、移動には車いすを使用することとなります。
認知症の合併
ALS患者の約2割に見られるのが、前頭側頭型認知症の合併です。
前頭側頭型認知症を患うと、感情のコントロールが難しくなることがあります。
それにより、温厚だった方が怒りっぽくなるといった人格の変化や、万引きを繰り返すといった問題行動が現れます。
ただし、ALS患者の併発する認知症では、アルツハイマー型認知症のように、記憶力や見当識(日付や場所などの把握)に障害を受けるケースはほとんど見られません。
ALSの検査方法
現代の医学では、ALSに特化した検査方法は確立されていません。
したがって、ALSが疑われる場合は、運動神経の障害を確認する検査や、よく似たほかの病気を除外するための検査を受けます。
主な検査内容は、以下の通りです。
【ALSの疑いがある場合に受ける検査】
検査名 | 検査内容・目的 |
|---|---|
針筋電図検査 | ・筋肉に細い針を刺して電気活動を調べる |
血液検査 | ・通常の採血項目にくわえて、特殊な項目(ガングリオシド抗体など)も検査する |
髄液検査 | ・腰の背中側から針を刺し、脳と脊椎の周囲にある髄液を採取する |
頭部MRI・脊髄MRI | ・筋力低下の原因となる脳梗塞や脳出血、腫瘍、脊椎疾患を発症していないかを確認する |
末梢神経伝達速度検査 | ・手足の末梢神経に電気刺激を与えて、電気の通るスピードに異常がないかを調べる |
遺伝子検査 | ・血液からDNAを抽出し、遺伝情報を解析する |
上記のうち、針筋電図検査は、運動ニューロンの障害を確認するためにもっとも重要な検査の一つです。
筋肉のわずかな収縮を捉えることで、初期段階でも異常が見つかる可能性があります。
なお、細い針電極をさまざまな部位の筋肉に刺すため、多少の痛みを伴うこともありますが、出血はほとんどありません。
関連記事:【保存版】ALS検査の流れと診断方法を詳しく解説!
ALSの治療法
ALSを根本的に治療する方法は確立されておらず、症状に悩む方の日常生活を支えるための治療が中心となっています。
具体的には、以下の治療法があります。
【ALSの治療法】
- 再生医療
- 薬物療法
- 対症療法
- 手術療法
再生医療
細胞が持っている力を活用して、損傷した組織や機能を修復させる治療法を、再生医療といいます。
ALSの再生医療で注目されているのが、歯髄・胎盤・骨髄・脂肪組織などから採取できる“幹細胞”を使用する方法です。
幹細胞には、神経細胞や筋肉細胞など、多様な種類の細胞に分化する能力と、自らと同じ細胞を作り出す自己複製能力があります。
これらの性質によって、組織の修復を促し、自然治癒力を高める効果が期待できるのです。
再生医療の一例として、ひとのわメディカルでは、幹細胞培養上清液を用いた再生医療を受けることができます。
幹細胞培養上清液とは、幹細胞を体外で培養する際に分泌される成分のことです。
この成分を全身に届けることで、神経細胞の再生や炎症の抑制をサポートし、機能回復を目指します。
また、幹細胞培養上清液を用いた再生医療は、幹細胞自体を体内に移植する従来の医療と比べて、拒絶反応や副作用のリスクが低いと考えています。
関連記事:再生医療にリスクはある?3つのリスクと事前に知っておきたい注意点
薬物療法
ALSの進行を抑制する薬としては、リルゾールやエダラボン、高用量メコバラミン、トフェルセンが使用されます。
それぞれの投薬方法と期待される効果を、以下にまとめました。
薬の種類 | 投薬方法・期待される効果 |
|---|---|
リルゾール | ・1日2回服薬することが推奨されている |
エダラボン | ・内服か点滴で投与する |
高用量メコバラミン | ・週2回、ビタミンB12の筋肉注射を行う |
トフェルセン | ・SOD1タンパク質の合成量と蓄積量を減少させて、家族性ALSの進行を遅らせる |
なお、これらの薬物療法を受ける際は、食事内容の調整やリハビリ、呼吸補助といった対症療法と併用することで、日常生活の維持を目指します。
対症療法
対症療法は、ALSの症状に悩む方の生活の質を維持するために行われる治療法です。
たとえば、筋肉のけいれんやつっぱりで痛みが生じる場合は、筋肉の緊張を和らげる筋弛緩薬や漢方薬が処方されることがあります。
また、抗コリン薬を服用して過剰な唾液の分泌を抑制したり、人工呼吸器で呼吸を補助したりするといった、日常生活をサポートするための治療も受けられます。
ALSの症状や経過には個人差があるため、ご自身の状態に応じた治療を受けることが大切です。
手術療法
呼吸や飲み込みが難しくなった場合は、手術が行われることがあります。
呼吸に関わる筋肉が萎縮した場合は、NIPPVとよばれる呼吸補助具を装着するか、気管を切開して人工呼吸器を取り付ける手術を受けます。
また、のどの筋力が低下し、自力での食事が困難な方には、鼻から胃へ栄養を補給する経鼻胃管や、胃に直接チューブを挿入する胃ろうの手術が必要です。
ALSについてよくある質問
最後に、ALSに関してよく聞かれる2つの質問にお答えします。
ALSを発症した際にリハビリを行うのはなぜですか?
ALS患者様がリハビリを行うのは、運動機能を維持するためです。
リハビリで関節の可動域を維持し、マッサージやストレッチで筋肉の緊張を和らげることで、筋力の低下するスピードを遅らせます。
ただし、過度なリハビリは症状の悪化を招くおそれがあるため、医師や理学療法士と相談しながら行うことが重要です。
ALSの発症を予防する方法はありますか?
ALSの発症原因は解明されていないため、その予防法も確立されていません。
また、ALSのみに特化した検査方法もなく、定期的な健康診断で早期に発見することも難しいとされています。
そのため、ALSが疑われる症状が現れたら、まずはかかりつけ医に相談し、脳神経内科や大きな病院を紹介してもらいましょう。
適切なケアをなるべく早く受けて、日常生活の質を維持することが大切です。
特定の食べ物がALSの発症に関与するという科学的な根拠はない
ALSと食べ物の関連性は解明されておらず、いまもなお研究が続けられている状況です。
同様に、ALSを発症する原因も明らかになっていませんが、遺伝子の異常や神経内のグルタミン酸の蓄積などが関与していると考えられています。
なお、ALSの治療法が研究されるなかで、患者様の日常生活を支えるための選択肢は徐々に増えています。
手足の動かしにくさや、発音の違和感などに気づいたら、まずはかかりつけ医に相談し、早期発見と適切なケアにつなげましょう。
ALSの症状でお悩みの方は、ひとのわメディカルにご相談ください。
再生医療や神経リハビリを通して、患者様の日常生活の維持をサポートいたします。
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