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ALSの患者様に必要なリハビリとは?目的やポイントも解説

ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断されたとき

「リハビリをしても筋肉は元に戻らないのでは…」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。

たしかにALSは進行性の病気であり、リハビリだけで病気そのものを治すことは難しいのが現状です。

それでも現在のALS診療では、リハビリは単なる運動訓練ではなく、“今の生活を守るための大切な支え”として考えられています。

近年の研究では、医師や療法士、看護師、栄養士、ケアマネジャーなど多職種が連携し、早い段階から生活全体を支えることが、生活の質(QOL)の維持につながると報告されています[8]。

ALSのリハビリテーション:2つの大きな目的

リハビリの目的は病気の進行段階により変化しますが、根底にあるのは「自分らしさを保つこと」です。

1.日常生活動作(ADL)の維持や向上

「自分の力で食事をしたい」「トイレに自分で行きたい」など、日常の当たり前の動作を一日でも長く続けられるよう支えます。

弱った筋肉を無理に鍛えるのではなく、残っている機能をどう活かすかを一緒に考えていきます。

自助具や装具、生活環境の工夫によって、自立した生活をサポートします。

2.運動や嚥下、呼吸機能の維持

ALSは全身の筋肉に関わるため、体全体を見ながらケアしていきます。

運動療法:関節拘縮を防ぎ、着替えや介助時の痛みを軽減します。

嚥下リハビリ:誤嚥を防ぎながら「口から食べる楽しみ」を守ります[7]。  

呼吸リハビリ:肺の動きを保ち、痰を出しやすくする練習などを必要に応じて早めから行います。

精神面や生活面(経済面を含む)のトータルサポート

理学療法士や作業療法士、言語聴覚士は、患者さんとご家族の伴走者です。

身体のケアだけでなく、心理的な不安への寄り添いや、介護保険制度の相談、視線入力装置などの提案を通して、生活全体を支えていきます[8]。

リハビリがもたらすこと

生活の質(QOL)が保たれやすくなる

コミュニケーション手段を確保し、社会とのつながりを保つことはQOLを支える重要な要素とされています[8]。

生活上の不自由や合併症への備え

病気そのものの進行を止めることは簡単ではありませんが、廃用による筋力低下や肺炎などの合併症は、適切なケアでリスクを下げられる場合があります。

不安感やストレスの軽減

専門家と具体的な対策を考えることで、療養生活への安心感につながることがあります。

ALSのリハビリテーションの種類

運動療法

関節や筋肉の柔軟性を保ち、日常動作を楽にすることを目的とします。

呼吸リハビリ

胸郭まわりの可動性を保ち、呼吸をしやすくするケアです。

嚥下リハビリ

飲み込み機能を支え、安全な食事と栄養摂取を目指します[7]。

ALSのリハビリに活用できる補助装置

歩行補助具

歩行器や車椅子は安全な移動を支え、体力の消耗を抑えます。

下肢装着型ロボットHALを用いた訓練が、呼吸機能や咳嗽力の維持に寄与する可能性が報告されています[6]。

意思伝達装置

視線入力装置などを用いることで、身体機能が低下しても意思疎通を続けられる場合があります。

補装具費支給制度の対象となることもあり、ケアマネジャーやソーシャルワーカーへの相談が役立ちます。

ソーシャルワーカーやケアマネジャーとの連携

ソーシャルワーカーやケアマネジャーとの連携も大切です。
ALSの療養生活では、医療だけでなく、介護保険や障害福祉サービス、難病医療費助成など、さまざまな制度を上手に活用していくことが重要になります。お住まいの地区で、難病指定や介護保険の申請が必要な場合が多いです。
医療ソーシャルワーカーは、経済面や制度面の相談窓口として、使える支援制度の整理や申請のサポートを行います。

ケアマネジャーは、訪問看護や訪問リハビリ、介護サービスなどを組み合わせ、その方の生活に合ったケアプランを作成します。

主治医やリハビリスタッフとソーシャルワーカー、ケアマネジャーが連携することで、

  • 必要なサービスを早めに整えられる
  • 補助装置や住宅環境の調整がスムーズになる
  • ご本人やご家族の精神的、経済的負担を軽くできる  

といったメリットがあります。

「まだ早いかな」と感じる段階でも、早めに相談しておくことで、将来の変化に落ち着いて備えることができます。

一人で抱え込まず、ぜひ専門職チームを頼ってください。

ALSのリハビリを行う際の注意点(リハビリ専門医の視点から)

  1. 過用性筋力低下への配慮過度な負荷により筋力低下が進む「過用性筋力低下」が起こることがあります。  病期に応じて軽〜中等度運動や他動運動へ切り替えます。
  2. 主治医と連携した個別プランALSは進行速度に個人差が大きく、診察結果に基づくオーダーメイドの計画が必要です。
    体重減少は予後と関連することが報告されており、栄養管理とリハビリ量の調整が重要です[3,4]。
  3. ストレッチを必ず組み合わせる関節拘縮による痛みの予防、胸郭の柔軟性維持による呼吸補助のため、やさしいストレッチを継続します。

ALSのリハビリとあわせて行いたい治療法

再生医療

近年、ALSの神経環境に働きかける方法として、幹細胞培養上清液を用いた治療が研究、実践され始めています。

幹細胞を培養する過程で分泌されるさまざまな成分には、炎症を和らげたり神経細胞を支えたりする可能性が基礎研究レベルで報告されています[2,5]。

ただし、効果の現れ方には個人差があり、現時点では標準治療を補完する選択肢の一つと考えられています。

リハビリと組み合わせながら、その方の状態に応じて検討していきます。

薬物療法

高用量メコバラミン、トフェルセン、エダラボン内服薬などがあり、病型や進行状況に応じて主治医と相談しながら選択していきます[5]。

外科的治療、栄養サポート

飲み込みが難しくなってきた場合には、胃ろうなどの栄養経路を検討することで、安定した栄養摂取と体力維持につながることがあります。

体重の維持は予後とも関係すると報告されており[3,4]、早めの相談が大切です。

おわりに

ALSという病気と向き合うことは、ご本人にとっても、ご家族にとっても、大きな不安や戸惑いを伴うものです。

リハビリは、病気を治すためだけのものではありません。

「今できることを大切にしながら、少しでも安心して毎日を過ごすための支え」です。

身体のケアだけでなく、呼吸や食事、生活環境の調整、気持ちのサポートまで含めて、医療チームは一緒に考えていきます。

困ったとき、迷ったときは、どうか一人で抱え込まず、主治医やリハビリスタッフに相談してください。

小さな工夫の積み重ねが、日々の過ごしやすさにつながります。

あなたらしい時間を守るために、私たちは寄り添いながら伴走していきます。

不安なことがあれば、どうぞ遠慮なくご相談ください。

引用、参考文献

1)Nakamura R et al. Neurobiol Aging 2016

2)葛原茂樹. 臨床神経学 2008

3)Shimizu T et al. J Neurol 2019

4)Nakayama Y et al. Sci Rep 2019

5)Akçimen F et al. Nat Rev Genet 2023

6)東邦大学 リハビリテーション科 研究報告 2020-2022

7)野﨑園子ほか J Clin Rehabil 2025

8)渋川茉莉ほか J Rehabil Med 2024

院長 瀨田康弘の写真

瀨田 康弘

ひとのわメディカル 院長|再生医療認定医

神経疾患・難病への再生医療アプローチを専門とする。ALS特定臨床研究(jRCT031230731)の主研究者。