
目次
― 「食べる力」を守るためにできること ―
脳梗塞のあとに起こる「嚥下障害(えんげしょうがい)」は、単に飲み込みにくいという問題ではありません¹。
- むせやすくなる
- 誤嚥性肺炎のリスクが高まる¹
- 食事量が減って体力が落ちる²
- 体重減少や脱水が進む²
こうした状態が続くと、全身の回復力が弱まってしまいます。
だからこそ、「食べること」と「体を回復させること」はセットで考える必要があります。
1. なぜ脳梗塞で飲み込みが悪くなるの?
飲み込む動きは、とても複雑な“チームプレー”です。
脳が「飲み込め」と指令を出し、喉や舌の筋肉がタイミングよく動き、気管に入らないように守りながら食べ物を送り込みます。
この働きには、
- 大脳皮質
- 皮質延髄路
- 脳幹の嚥下中枢
が関わっています¹。
脳梗塞でその神経の通り道が傷つくと、
- 飲み込むタイミングが遅れる
- 喉の動きが弱くなる
- 食べ物が残る
といった症状が出ます。
「むせ」は、体からの大切なサインです。
2. 栄養は“回復のエネルギー”
嚥下障害があっても、できる限り「口や胃腸を使う」ことが大切です²³。
栄養の取り方にはいくつか方法があります。
経口摂取
やわらかい食事や、とろみをつけた飲み物で安全に食べる方法¹。
経腸栄養(経鼻チューブ・胃ろう)
胃に直接栄養を入れる方法²。
点滴(静脈栄養)
消化管が使えない場合の方法²。
大切なのは、どの方法かよりも、体に必要な栄養がしっかり入っているかどうか²です。
栄養が不足すると、
- 筋力が落ちる(サルコペニア)²
- 免疫が下がる²
- リハビリが続かない¹
という悪循環に入ってしまいます。
3. 嚥下リハビリで回復は期待できる?
脳には「神経可塑性」という力があります⁴。
傷ついた部分を、ほかの神経が助ける仕組みです。
嚥下リハビリでは、
- 喉の筋肉トレーニング¹
- 呼吸の練習¹
- 正しい姿勢の調整¹
- 口腔ケア¹
などを行います。
慢性期でも、適切な栄養状態のもとで継続することで、機能改善がみられる症例が報告されています¹⁴。
栄養は、神経を再び働かせるための“ガソリン”のような役割を担います。
4. 再生医療という新しい研究分野
近年、慢性期の脳梗塞に対して細胞を用いた「再生医療」の研究も進められています⁵⁶。
研究では、
- 神経の修復を助ける可能性
- リハビリ効果を高める可能性
が検討されています。
ただし、現時点では研究段階であり、標準治療ではありません。
再生医療は、リハビリを補助する可能性を検討する段階の治療選択肢と理解することが大切です。
5. 私たちが大切にしていること
医療の目的は、ただ長く生きることだけではありません。
- 家族と同じ食卓を囲む
- 自分の口で味わう
- 「食べたい」と思える
その力を守ることが、人生の質(QOL)につながります。
嚥下障害があっても、あきらめる必要はありません。
まとめ
脳梗塞後の嚥下障害では、
- 栄養をしっかり確保する²
- 正確な嚥下評価を行う¹
- 継続的なリハビリを行う¹
- 必要に応じて新しい治療の可能性を検討する⁵
この4つをバランスよく進めることが重要です。
当院では、お一人おひとりの状態を丁寧に評価し、「食べる力」を守るための最適な方法を一緒に考えます。
どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献
¹ 日本脳卒中学会. 脳卒中治療ガイドライン2021(改訂2023)
日本摂食嚥下リハビリテーション学会. 診療ガイドライン2018
² ESPEN Guideline on Clinical Nutrition in Neurology. Clinical Nutrition. 2018.
日本静脈経腸栄養学会(JSPEN)ガイドライン
³ Cederholm T, et al. Clinical Nutrition. 2017.
⁴ Kleim JA & Jones TA. J Speech Lang Hear Res. 2008.
⁵ Steinberg GK, et al. Stroke. 2016.
⁶ Hess DC, et al. Transl Stroke Res. 2017.