ALS(筋萎縮性側索硬化症)は神経系の不調により発症する疾患の一つで、国の指定難病の一つに指定されています。
発症から短期間で急速に進行するため、早期に発見して治療を受けることが非常に重要です。
そこで本記事では、ALSについて、具体的な症状や治療方法などを解説します。
ご自身やご家族が現在ALSでお悩みの方や、「もしかしたらALSかもしれない」とご不安に感じられている方は、ぜひご一読ください。
目次
ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは?
ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、運動神経の障害によって筋肉が萎縮して動かしにくくなっていく病気です。
具体的には、手足・のど・舌の筋肉や、呼吸に必要な筋肉が徐々にやせていきます。
特に50~70歳代の男性が多く発症するとされており、余命は発症から2~5年程度です。
しかし、なかには10年以上生存される方もいます。
詳しくは後述しますが、かなり難しい病気で長いこと原因は解明されていませんでしたが、近年TDP-43というタンパク質の蓄積、さらにはストレス顆粒の機能異常が大きな原因と考えられています。
なお、ALSは筋肉に症状が現れる疾患ですが、筋肉そのものの病気ではありません。
“運動神経細胞”(運動ニューロン)とよばれる、筋肉を動かす神経が障害を受けることで、脳から「体を動かせ」という指示が伝わらなくなり、筋肉がやせていきます。
つまり、神経の疾患ということです。
また、障害を受けるのはあくまでも運動神経細胞なので、ALSを発症したとしても身体の感覚や視力・聴力、内臓機能などは影響を初期では受けないことがほとんどです。
ALSの原因
ALSの原因はまだ十分に解明されていないのが現状ですが、主に以下の要素が原因として考えられています。
ALSの原因
- 遺伝子異常
- 異常なタンパク質の蓄積
- 酸化ストレス
- グルタミン酸毒性
- ミトコンドリア機能不全
遺伝子異常
遺伝によるALSの発症(家族性ALS)は全体の1割と多くはありませんが、事実として認められています。
家族性ALSの一部には、活性酸素を解毒する作用をもつ“SOD1”という遺伝子の突然変異がみられます。
この突然変異によって活性酸素が解毒されず、結果運動神経細胞が障害を受け、ALSを発症するとされているのです。
ただし、SOD1の突然変異が確認されているのは家族性ALS患者の2割程度なので、すべてのALSの原因ではありません。
異常なタンパク質の蓄積
異常なタンパク質が蓄積されると神経細胞のはたらきが妨げられます。認知症やパーキンソン病など神経がやられてしまう病気にはこのような特徴があります。
多くのALS患者には、TDP-43とよばれる、通常は細胞核にあるタンパク質が細胞質に漏れ出て異常な凝集体が形成されていることが確認されているのです。
TDP-43というタンパク質が細胞のRNAなどの調整をしており、細胞のバランスを調整しています。この異常なタンパク質が増えることで、バランスが崩れ神経細胞全体の機能が維持できなくなりALSが発症するとされています。
酸化ストレス
なぜ、そのようなタンパク質が溜まるのでしょうか?それは、ストレスによるものです。
ストレスにはいろいろとありますが、代表的なものには酸化ストレスです。
活性酸素やフリーラジカルといった有害な物質のはたらきが過剰になることで運動神経細胞が傷つき、TDP-43が蓄積され、ALSを発症するという見解もあります。
上述の「遺伝子異常」で解説したように、SOD1遺伝子によって活性酸素が解毒されないと運動神経細胞が障害を受けます。
これは、体内で“酸化ストレス”とよばれるものが強くなるためです。
酸化ストレスが強くなると、体内のミトコンドリアの機能が妨げられ、神経細胞が十分なエネルギーを作れなくなってしまいます。
先ほどは家族性ALS患者の2割程度にこの傾向がみられるとお伝えしましたが、家族性以外のALS患者の一部にもSOD1遺伝子の異常が起きていることがあるようです。
なお、酸化ストレスはSOD1遺伝子の異常だけでなく、化学物質の吸引や喫煙などの環境因子によっても起きるとされています。
グルタミン酸毒性
神経伝達に必要なグルタミン酸が過剰に蓄積し、運動神経細胞を刺激しすぎてしまうことによる“グルタミン酸毒性”もALSの原因として考えられています。
適切に取り込めなくなったグルタミン酸が神経細胞の外に蓄積し、過剰な量となって神経細胞を刺激してしまいます。
ミトコンドリア機能不全
私たちの体内にある細胞には、体内の状態を適切にコントロールするための“ミトコンドリア”とよばれる細胞小器官があります。
このミトコンドリアが適切に機能しなくなることによっても、ALSを発症するとされています。
ミトコンドリアの機能が低下すると、神経細胞のエネルギーが不足し、運動神経細胞のはたらきが弱まってしまうためです。
さらに、機能が低下したミトコンドリアによって活性酸素が増加し、タンパク質が傷つけられます。
傷つけられたタンパク質が蓄積されると細胞への負担が大きくなるため、機能がより低下してしまうというわけです。
このようなストレスを受けたら、すぐに細胞は死んでしまうのかというと、そうではなく自分の力でストレスを処理をしています。それが、ストレス顆粒というもので、一時的にストレスを受けたときに、大事なものをしまうシェルターのような機能をもっていますが、この機能が壊れてしまうほど強いストレスがあると、ALSが発症するのではという考え方があります。
ALSの症状
ALSにはさまざまな症状がありますが、大きく3つの型に分けられます。
ALSの症状の一例
発症様式 | 症状の特徴 |
|---|---|
上肢型(普通型) | ・上肢(肩から手まで)の筋萎縮と筋力低下が主体「手指が使いにくくなる」 ・「肘から先の力が弱くなる」などの初期症状がみられる ・その後徐々に下肢神経(股関節から足の指までの神経)の障害が起き、嚥下などの筋力も落ちていく |
球型(進行性球麻痺) | ・言語障害・嚥下障害などが主体「話しづらい」「食べ物が飲み込みにくい」などの初期症状がみられる ・最終的には全身の筋肉が衰え、力が入らなくなり、歩けなくなる |
下肢型(偽多発神経炎型) | ・下肢(股関節から足の指まで)の筋力低下が主体 左右どちらかの足の力が徐々に弱くなる ・反対側の足にも症状が広がったあと、手の力や嚥下の筋力も落ちていく |
いずれの場合であっても全身の筋肉が2~5年ほどで弱くなり、自身で体を動かすことが困難となります。
また、症状が進行すると呼吸も難しくなるため、最終的には人工呼吸器が必要となることが一般的です。
ALSの陰性症状
ALSを発症しても末期まで出現しにくい症状を“陰性症状”といい、以下の4つが主要な陰性症状として挙げられます。
ALSの陰性症状
膀胱直腸障害 | 膀胱や直腸の筋肉を動かす神経は障害されないことが多い 尿意や便意の感覚もあるため、介助してもらって自分で排泄できる |
|---|---|
眼球運動障害 | ・眼球を動かす神経は障害されないことが多い ・話せなくなっても、まばたきや眼球の動きで意思表示できる |
感覚障害 | 視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚などの知覚神経は障害されないことが多い |
褥瘡(床ずれ) | 寝たきりになっても床ずれが起こりにくい |
ALSは運動神経細胞の不調による疾患ですが、上記のように膀胱・直腸の筋肉や眼球を動かす神経はあまり影響を受けないとされています。
また、知覚障害・感覚障害は基本的にほとんど起きません。
しかしそれゆえに「周囲の状況はわかるのに、自分の意思で体を動かせない」ということに精神的なストレスを感じてしまう側面もあります。
ALSの検査方法
ALSだけを診断する検査方法はありませんが、“針筋電図検査”とよばれる、電極の付いた針を筋肉に刺す検査によって、運動神経細胞の障害を判断することができます。
針筋電図検査は筋力の低下や筋肉の萎縮がみられるときに行う検査です。
筋肉内の収縮などを確認することで、筋力の問題が筋肉と末梢神経、脊髄のうちどれに原因があるのかを判断します。
検査によって、手足などの筋肉に指示を出す“下位運動ニューロン”に障害がみられた場合は、ほかの体の状態などと照らし合わせたうえでALSと判断されます。
なお、針筋電図検査は筋肉に直接針を刺すため多少の痛みを伴いますが、出血はほとんどありません。
ALSの治療方法
現代の医学では、ALSを根本的に治療する方法は確立されていないため、進行を遅らせる、あるいは症状を緩和する治療が基本となっています。
具体的には、以下の方法で治療を進めていくこととなります。
ALSの治療方法
- 再生医療
- 薬物療法
- 対症療法
- 手術療法
再生医療
人間の細胞などの力を使って、病気や怪我によって機能不全になった組織や臓器を再生させる治療方法を“再生医療”といいます。
なかでも注目されているのが、幹細胞とよばれる多様な細胞に分化できる細胞を用いる“幹細胞治療”です。
幹細胞を培養して患者さまの体に投与することで、損傷した臓器や組織の回復を目指せます。
たとえば、幹細胞を点滴によって全身に投与する点滴療法では、運動機能の改善や神経修復のサポートが可能です。
ただし、幹細胞そのものを戻す治療は、手術や培養などがあり、負担と費用がかかります。
そのため、当院では歯髄幹細胞上清液という歯の細胞から作られた、再生医療の薬を投与することで、細胞そのものを使用せずに、安全に負担をへらして治療することができます。
薬物療法
グルタミン酸毒性や酸化ストレスといった、神経細胞を傷つける仕組みによってALSを発症している場合は、薬物療法が用いられます。
リルゾールやエダラボン、高用量メコバラミンなどの治療薬によって、ALSの進行を抑制することが可能です。
なお、基本的に薬物療法は、呼吸補助や栄養管理、リハビリといった対症療法と併用します。
また、治療の効果を高めるためには早期の段階で投薬を始めることが望ましいとされています。
対症療法
病気の原因を取り除くのではなく、病気によって起きている症状を和らげる治療法を“対症療法”といいます。
ALSではさまざまな症状が現れるため対症療法の種類も多岐にわたります。
具体例は以下をご覧ください。
ALSの対症療法の一例
呼吸障害 | 非侵襲的換気療法(NIV) 人工呼吸器の使用 |
|---|---|
嚥下障害・栄養障害 | 胃瘻(いろう)による経管栄養 体重減少の予防・予後の改善 |
筋肉のつっぱり | 筋弛緩薬や漢方薬(芍薬甘草湯)の服用 理学療法やマッサージによる緩和 |
よだれ・むせ込み | 抗コリン薬・三環系抗うつ薬の服用 吸引装置喉頭摘出術の検討 |
不眠・精神的な不調 | 睡眠導入薬や抗うつ薬の服用カウンセリング呼吸補助療法 |
認知症状 | 三環系抗うつ薬・SSRIの服用社会生活支援・生活の質の維持 |
ALSは症状の進行とともに苦痛を伴うため、対症療法によって日々の苦痛を軽減し、生活の質を保つことが大切です。
症状ごとにさまざまな対症療法を組み合わせ、少しでも不自由のない生活を送れるようにサポートします。
手術療法
上述した対症療法の一環として、手術を行う場合もあります。
そのため手術療法といっても、ALSそのものの手術ではありません。
たとえば、呼吸筋が低下している場合は放置すると呼吸不全や窒息のリスクがあるため、気管切開や人工呼吸器の装着が行われます。
また、ALSによる嚥下障害で食事が難しくなった場合は、胃瘻(いろう)造設術が選択肢に上がります。
ALSに関するよくある質問
最後に、ALSに関して多くの方が抱かれる疑問に対してお答えしていきます。
ALSに関するよくある質問
- ALSの初期症状が見られる場合はどの診療科を受診すればよいですか?
- ALSと診断されたあとに気分が変化するのは病気の影響ですか?
- ALSは支援制度や保険制度の対象ですか?
ALSの初期症状がみられる場合はどの診療科を受診すればよいですか?
初期症状として、良くつまづく。物を落とす。キャップを開けにくくなった。などです。
「ALSかもしれない」と思ったら、まずは脳神経内科を受診してください。
初期症状によっては整形外科や耳鼻咽喉科などを受診する可能性もありますが、ALSの確定診断を受けるには脳神経内科を受診する必要があります。
ALSと診断されたあとに気分が変化するのは病気の影響ですか?
ALSの影響と、心理的ショックの両方が考えられます。
ALSの症状では、感情のコントロールや性格に変化をきたす“前頭側頭型認知症”を伴うことがあるためです。
しかし、すべての患者さまにこの症状が表れるわけではありません。
ALSは治療方法が確立されていない難病なので、診断を受けたショックや将来への不安から、気分が落ち込んでしまうことも十分に考えられます。
いずれの場合であっても、気分が落ち込んだら早めに医師へご相談ください。
精神科医やカウンセラーの支援を受けることで、少しずつ気持ちが整っていくはずです。
ALSは支援制度や保険制度の対象ですか?
ALSと診断された場合は、主に以下の制度を利用できます。
ALS患者が対象の制度
- 指定難病医療費助成制度
- 身体障害者手帳
- 障害者福祉サービス
- 介護保険
いずれの制度も、利用するには申請が必要です。
申請方法がわからない場合は、医療機関や自治体の福祉窓口などで相談しましょう。
ALSは、運動神経細胞の損傷によって筋肉の運動に支障が出る難病
ALSは、何らかの要因により運動神経細胞が損傷することで、筋肉を動かせなくなっていく病気です。
現代の医学では、完治できる治療方法が見つかっておらず、対症療法が基本となっています。
ただし、当院の再生医療の治療では動かなくなった足が動くなど、症状が改善する方がいらっしゃいます。
なお、再生医療によるALSへのアプローチにご興味のある方は、ひとのわメディカルにご相談ください。
幹細胞治療による再生医療と神経リハビリを組み合わせて、患者さまのQOL(生活の質)の改善を目指しています。