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ALS患者が受けるリハビリとは?作業療法の内容を解説

「ALSと診断されたら、もうリハビリをしても意味がないのでは?」

そう感じる患者さんや家族の方は少なくありません。
ALSは現時点では根本的な完治が難しい病気であるため、リハビリに対して悲観的なイメージを持つ方も多いのが実情です。

しかし、リハビリはALS患者さんにとって決して無意味ではありません。
むしろ、病状の進行を緩やかにしながら「今できること」を守り続けるために、リハビリは不可欠な存在です。
なかでも「作業療法」は、日常生活動作の維持から社会参加の支援まで、患者さんの生活全体を多角的にサポートする重要なリハビリです。

本記事では、ALSの基礎知識から、患者さんが受けるリハビリの種類と目的、そして作業療法の具体的な内容や注意点まで、できる限りわかりやすく解説します。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは

ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis)は、日本語で「筋萎縮性側索硬化症」と呼ばれる神経変性疾患です。
脳や脊髄にある「運動ニューロン(運動神経細胞)」が徐々に壊れていくことで、全身の筋肉が思うように動かせなくなっていきます。

日本における患者数は約1万人で、国から「指定難病」に指定されています。
発症年齢は50〜70代が多く、男性にやや多い傾向がありますが、若年層の発症例も報告されています。

ALSの大きな特徴は、筋力低下や麻痺が進行する一方で、感覚・視力・聴力・知能、さらに膀胱や直腸の機能は比較的長く保たれやすい点です。
そのため、自分の状況をしっかり認識しながら身体の自由が失われていく経過をたどる患者さんが多く、精神面のサポートも重要になります。

進行スピードには個人差が大きく、発症から数年以内に呼吸不全が進む場合もあれば、10年以上経過しても比較的安定しているケースもあります。
現時点では治癒する治療法は確立されていませんが、医療、介護、リハビリが連携することで、その人らしい生活を長く続けることは十分に可能です。

ALSの主な症状

ALSでは、運動ニューロンが侵されることで全身の筋肉が動かしにくくなり、様々な症状が現れます。
これらの症状を理解することは、それぞれに適したリハビリを選択するうえでも重要です。

手足の筋力低下や筋萎縮

ALSで最初に気づかれやすい症状です。

  • ペットボトルのふたが開けにくくなった
  • 箸を落とすことが増えた
  • 足がもつれて転ぶようになった

といった変化から始まることが多く、徐々に日常生活の動作全般に支障をきたしていきます。
筋力が低下するだけでなく、使われなくなった筋肉は萎縮(細くなること)し、外見からも変化が目に見えるようになります。
進行すると寝返りや起き上がりといった基本動作も困難になり、車いすや介護ベッドが必要な段階へ移行します。
早期から適切なリハビリを行うことで残存する筋機能をできる限り維持できます。
身体の動きが制限されてきた段階では、自助具や福祉用具の活用で「自分でできること」を補います。

構音障害

舌、唇、軟口蓋などの口腔周囲の筋肉が弱くなることで、言葉が不明瞭になる症状です。

・声がかすれる

・話しているとすぐ疲れる

・相手に聞き返されることが増えた

という変化として現れます。
進行すると発話自体が困難になるケースもあります。
しかし、言語聴覚士による構音訓練や意思伝達装置(コミュニケーションエイド)の活用によって、コミュニケーション手段を確保することは十分に可能です。
「言葉で伝えられなくなること」への不安は患者さんの精神的負担にも直結するため、早期からの準備と対応が重要です。

嚥下障害

飲み込みに関わる咽頭周辺の筋肉が弱くなることで、食べ物や飲み物をうまく飲み込めなくなる症状です。
食事中にむせる、食事に時間がかかる、水分でもむせやすいといった変化が出てきます。
最大のリスクは誤嚥性肺炎で、飲食物や唾液が誤って気道に入ることで肺に炎症を起こし、命に関わる事態になることもあります。
言語聴覚士による嚥下訓練と、医師や栄養士と連携した食形態の調整が非常に重要です。必要に応じて胃ろうによる経管栄養も検討されます。

呼吸機能の低下

横隔膜、肋間筋など呼吸に関わる筋肉が弱くなることで、息を深く吸えなくなります。
「少し動いただけで息が切れる」「夜中に息苦しくて目が覚める」といった形で現れます。
呼吸機能の低下は生命に直結するため、定期的なスパイロメトリーで状態をモニタリングし、進行に応じてNPPV(非侵襲的陽圧換気)などを検討します。

ALS患者がリハビリを受ける目的

ALSに対するリハビリは、「病気を治す」ためではなく、「現在の機能をできる限り長く維持し、生活の質(QOL)を守り続けること」を主な目的としています。

2023年に改訂されたALS診療ガイドラインでも、リハビリテーションはALS患者の包括的ケアの重要な柱として明確に位置づけられています。
具体的には、

  • 廃用症候群(使わないことによる二次的な機能低下)の予防
  • 日常生活動作の維持、呼吸や嚥下機能のサポート
  • コミュニケーション手段の確保
  • 患者さんの社会参加と精神的QOLの維持

が主な目的として整理されます。

「病気が進行しているからリハビリに意味がない」という考えは誤りです。
たとえ機能回復が見込めない段階であっても、現在できることを維持し、日々の生活を少しでも豊かにするためにリハビリは機能します。

ALS患者が受けるリハビリの種類

ALSのリハビリは、専門の資格を持った3職種が連携して行います。

作業療法

作業療法士(OT)が担当します。
食事や着替え、トイレなどの日常生活動作から、仕事、趣味、地域活動まで、その人の生活を構成するすべての「活動」を支援します。
患者さんが「何を大切にしているか」「どんな生活を送りたいか」という個別の目標を中心に据えてアプローチする点が特徴で、

  • 手や腕の筋力維持
  • 自助具の提案
  • 生活環境の整備
  • 家族への介護指導
  • 社会参加の支援

など、日常生活のあらゆる場面に関わります。

理学療法

理学療法士(PT)が担当します。

  • 姿勢
  • 歩行
  • バランス
  • 関節可動域

など「身体の動き」に焦点を当てたリハビリです。
ストレッチで拘縮(関節が固まること)を予防したり、残存筋力を活かした歩行訓練を行います。
呼吸筋のリハビリや、床ずれを防ぐためのポジショニング(体位の工夫)指導も担います。病状が進んだ段階では、ベッド上でできる関節運動など、負担の少ない形でリハビリを継続します。

言語聴覚療法

言語聴覚士(ST)が担当します。

  • 発声
  • 構音の訓練
  • 嚥下機能の維持、改善
  • コミュニケーション手段の確保

が主な役割です。
発話が困難になってからでも、視線入力装置や文字盤、スマートフォンのアプリを活用した意思伝達手段の確立を中心となって支援します。

ALSの症状に対する作業療法

作業療法はALSの患者さんにとって、日常生活への影響が最も直接的に現れるリハビリです。ここでは6つの視点から詳しく解説します。

日常生活動作(ADL)訓練

食事、着替え、入浴、トイレ、移動など、日々の生活を支えるあらゆる動作(ADL)への支援が作業療法の中心です。
作業療法士はまず「その患者さんにとって今いちばん大切な動作は何か」を丁寧に聞き取り、個別のプログラムを組み立てます。
「自分でトイレに行けることが最優先」「食事だけは自分の手で食べたい」といった患者さんそれぞれの優先事項を尊重することが、動機づけの維持にもつながります。

訓練では単に繰り返し練習するだけでなく、

  • 疲れにくい姿勢を工夫する
  • 動作の順番を変えて負担を減らす
  • 一部だけ補助具に頼ることでほかは自分でやり切れる

といった実践的な工夫を積み重ねます。
病状の進行に合わせて定期的に内容を見直し、その時々の状態に最適化し続けることが、長期的な自立度の維持につながります。

手や腕の筋力の維持

ALSでは上肢(腕)の筋力低下が比較的早い段階から現れることがあります。
上肢の機能をどれだけ長く保てるかが、自立した生活の継続に大きく影響します。
作業療法士は筋力評価に基づき、残っているうちから適切な運動を行います。
注意すべきは、ALSでは過度な運動が逆効果になる可能性があるという点です。
疲労を翌日に残さない程度の「適度な強度、適切な頻度」での訓練が基本です。
筋力が低下してきた段階では、腕の重さを支えるアームサポート(モバイルアームサポート)の導入も検討されます。

福祉用具や自助具の提案

ALSが進行するにつれて、これまでの日用品では対応できなくなる場面が増えてきます。
作業療法士は患者さんの状態に合った自助具、福祉用具を選定、提案します。
代表的なものは、

  • 握りやすい太柄スプーン
  • フォーク、ボタンエイド(指の力が弱くてもボタンをかけられる器具)
  • 筆記補助グリップ
  • 視線入力装置
  • 電動車いす

などです。
「今必要なもの」だけでなく「近い将来必要になりそうなもの」も先読みして提案し、早めに使い慣れておけるよう支援します。
自助具を上手に取り入れることで、介護に頼る場面を減らしながら自分でできることを長く維持できます。

生活環境の調整

身体機能が低下しても安全に自宅で生活を続けるために、作業療法士が自宅を訪問し(家屋評価)、実際の生活動線を確認したうえで改修、整備を提案します。
主な内容は、

  • 廊下、浴室への手すり設置と段差解消
  • 車いすが通れる動線の確保
  • 介護用電動ベッドへの切り替え
  • NPPVや胃ろう用機材の設置スペースの確保

などです。
「今は必要ない」と感じる改修でも、将来の状態変化を見越して早めに着手しておくことで、急な状態悪化時にも慌てず対応できます。
住環境の整備は、患者さんだけでなく介護者の負担軽減にも直結します。

家族や介護者への指導

ALSのリハビリには、日々のケアを担う家族、介護者への支援も含まれます。
正しい介助方法を知らないまま続けると、介護者自身が腰痛などの身体的ダメージを受けるだけでなく、患者さんにとっても安全、快適でないケアになってしまいます。

作業療法士は

  • ベッドから車いすへの安全な移し方
  • 残存機能を活かした食事
  • 更衣介助のコツ
  • 自助具の正しい使い方
  • むせや呼吸変化、褥瘡の初期サインへの気づき方

などを丁寧に指導します。

また、レスパイトケアや介護保険サービスの活用について情報提供し、介護者自身の身体的、精神的負担を軽減するための支援も行います。
介護者が無理なくケアを続けられる環境を整えることが、患者さんのQOL維持にも直結します。

社会活動の支援

作業療法の重要な目的のひとつが、患者さんの社会参加を継続的に支援することです。
病気になっても「社会のなかで生きている実感」を持ち続けられることがQOLの根幹であり、作業療法士はその実現を生活の隅々から支えます。

具体的には、

  • 視線入力装置や音声認識ソフトを活用した在宅就労継続の支援
  • 趣味活動を状態に合わせた形で続けられるよう道具、方法を調整すること
  • 外出支援や電動車いすの操作訓練
  • 患者会、家族会などコミュニティとの橋渡し

などを行います。
「病気になる前の自分らしさ」を少しでも維持できることが、患者さんの精神的なQOLに大きく影響します。
孤立を防ぎ、社会とのつながりを保ち続けることも、作業療法士が担う大切な役割のひとつです。

ALS患者が作業療法を受ける際の注意点

作業療法をより安全で効果的に続けるためには、以下の4つの点に注意することが重要です。

過度な運動負荷を避ける

ALSの場合、筋肉を過度に酷使することで神経、筋へのダメージが蓄積し、筋力低下を早める可能性が指摘されています。
リハビリの原則は「鍛えて回復させる」ではなく「今ある機能を守る」です。運動後に強い筋肉痛、倦怠感が翌日以降まで続く場合は強度を下げるサインと考えてください。
作業療法士と相談しながら無理のない範囲で継続することが、結果として長期的な機能維持につながります。

疲労や体調の変化に注意する

ALSでは全身の疲れやすさが特徴的です。
「今日は調子がよいから多めにやっておこう」という行動が翌日以降の体調悪化を招くことがあります。
体調の良し悪しをその日のリハビリ内容に反映させることが大切です。

特に注意すべき体調変化として、

  • 息苦しさの増悪
  • むせの頻度増加
  • 発熱
  • 著しい倦怠感

などがあります。

これらが現れた際はリハビリを中止し、速やかに医師、看護師に相談してください。
日々の体調を記録しておくと、変化を客観的に把握しやすく、医療チームとの情報共有にも役立ちます。

病状の進行に合わせて内容を調整する

3ヶ月前までできていた動作が今はできなくなっているケースも珍しくありません。
「以前と同じメニューを続ける」ことにこだわらず、現在の状態に合わせて内容を柔軟に更新することが大切です。
定期的な機能評価(筋力、関節可動域、呼吸機能、嚥下機能など)をもとに目標とプログラムを見直す「評価→計画→実施→再評価」のサイクルを継続することが、長期的な効果につながります。
「今できること」を丁寧に把握し直すことが、次のアプローチの出発点になります。

医療、介護スタッフと連携して進める

ALSの包括的なケアは多職種チームで行います。

  • 医師
  • 理学療法士
  • 言語聴覚士
  • 看護師
  • 管理栄養士
  • ソーシャルワーカー
  • ケアマネジャー

などが情報を共有しながら連携することが不可欠です。
作業療法士が気づいた「最近食事介助が難しくなっている」「移乗に介護者の負担が増えている」といった変化を他職種に適切に共有することで支援全体の質が高まります。
患者さん、家族も含めたチームとして定期的にカンファレンスを持ち、目標と方針を確認し合うことが理想的です。

ALS治療における再生医療の可能性

現在、ALS治療の新たな選択肢として、再生医療への関心が世界規模で高まっています。
ひとのわメディカルでも、ALS患者さんに向けた再生医療の提供を行っています。

再生医療とは、患者さん自身や他者の細胞、組織を活用して、失われた機能の修復、再生を目指す医療技術の総称です。
ALSに対しても様々なアプローチが研究、臨床応用されていますが、ひとのわメディカルでご提供しているのは、幹細胞そのものを体内に移植する治療ではなく、歯髄幹細胞培養上清液を用いた再生医療です。

歯髄幹細胞培養上清液とは、幹細胞を体外で培養する過程で分泌される成分(成長因子やサイトカインなどを含む液体)を抽出したものです。
幹細胞本体ではなく、その幹細胞が持つ「働き」に着目した治療方法であり、幹細胞を直接体内に移植しないため、移植に伴う拒絶反応や外科的手術のリスクを回避できます。
また安全性プロファイルが比較的高く、研究が進むにつれて神経疾患をはじめとした幅広い分野での応用可能性が期待されています。

従来の薬物療法やリハビリと組み合わせることで、症状の進行を緩やかにし、生活の質をより長く保てる選択肢として、関心を持つ患者さんが増えています。

ひとのわメディカルが提供する再生医療

ひとのわメディカルでは、ALS患者さんに対する再生医療を提供しています。
最新のエビデンスと技術に基づきながら、患者さん一人ひとりの状態、希望、生活背景を丁寧にヒアリングしたうえで、個別の治療計画を立案します。

「今の治療やリハビリだけでは限界を感じている」「新しい選択肢を知りたい」とお考えの患者さん、ご家族は、ぜひ一度ご相談ください。
専門スタッフが丁寧にご説明します。

治療の流れ

ひとのわメディカルでの治療は、以下のステップで進みます。

  1. 初回相談、カウンセリング現在の症状、治療歴、お困りのこと、ご希望を詳しくお伺いします。無理に治療を勧めることはなく、まずは安心してご相談ください。
  2. 検査、適応評価血液検査や身体評価を行い、治療の適応があるかどうかを確認します。
  3. 治療計画の立案検査結果、患者さんの状態に基づいて、最適な治療内容、スケジュール、費用についてご説明します。
  4. 治療の実施担当医のもとで安全に再生医療を実施します。
  5. 経過観察、フォローアップ治療後も定期的に状態を確認し、必要に応じて追加治療や療養サポートのご案内をします。

まとめ

ALSは根本的な治癒が難しい病気ですが、リハビリの力を活用することで「今できることを守り続ける」ことは十分に可能です。
なかでも作業療法は、

  • 日常生活動作の訓練
  • 自助具の活用
  • 生活環境の整備
  • 家族支援
  • 社会参加のサポート

と、生活全体を包括的に支える役割を担っています。

大切なのは、病状の変化に合わせてリハビリの内容を柔軟に更新しながら、多職種チームと連携して継続することです。
「症状が進んだからリハビリをやめる」のではなく、「症状が変わったからリハビリの方法を変える」という発想で、長期的な視点でQOLの維持を目指しましょう。

さらに、歯髄幹細胞培養上清液を用いた再生医療など新たな治療の選択肢についても、担当医や専門医療機関に積極的に相談することをおすすめします。
ALSと向き合うすべての患者さんとご家族が、少しでも安心して毎日を過ごせるよう、ひとのわメディカルは医療、リハビリの両面から全力でサポートします。

院長 瀨田康弘の写真

瀨田 康弘

ひとのわメディカル 院長|再生医療認定医

神経疾患・難病への再生医療アプローチを専門とする。ALS特定臨床研究(jRCT031230731)の主研究者。