
「ALSは治らないと聞いたけれど、本当に希望はないのかな…」と、先の見えない不安を感じている方もいるかもしれません。
これまでの常識では、ALSは治療が非常に難しい病気とされてきました。
しかし、日々の医療技術の進歩とともに、世界中でALS治療の研究が進められています。
諦めずに前を向くためにも、まずは最新の正しい情報を知ることが、未来への大切な一歩になるはずです。
この記事では、ご自身やご家族がALSと向き合っている方に向けて、
- ALS治療の現在地と最新の研究動向
- 今後の実用化が期待される新しい治療法
- 日本国内で受けられる治療や治験の情報
上記について、分かりやすく解説します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断や治療の代替にはなりません。治療の適応や選択は、主治医・専門医とご相談ください。
ALSとは?その基礎知識と現状
ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは、体を自由に動かすために必要な運動神経(運動ニューロン)が少しずつ障害を受けていく進行性の神経難病です。
筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かす神経に問題が生じるため、徐々に手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がやせて力がなくなっていきます。
現時点では根本的に「完治させる」治療法は確立されていませんが、病気の進行を抑える(遅らせる)ことを目的とした治療薬や、支持療法の研究・開発が続けられています。
原因はまだ完全には解明されていない部分が多く、診断を受けた方やご家族は、先の見えない不安を抱えてしまうかもしれません。
一方で、公的データでも国内患者さんは1万人規模とされ、治療法の確立に向けて多くの研究者・医療機関が取り組んでいます。
初期症状は人によって異なりますが、手指の使いにくさ・筋力低下、ろれつの回りにくさ、飲み込みにくさなどから始まることがあります。
なお、ALSでは体の感覚(しびれ等)は保たれることが普通とされ、いわゆる「しびれ」から始まることを典型例として強調しすぎない方が適切です。
日本では国の指定難病とされており、医療費助成をはじめ、患者さんやご家族を支える公的支援制度があります。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは何か
ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは、脳からの指令を筋肉に伝える運動ニューロンが選択的に障害される進行性の神経変性疾患です。
この病気によって筋肉が徐々にやせ細り、力がなくなっていきます。
発症年齢は中高年に多いとされますが、より若い世代で診断される場合もあります。
症状が進行すると、手足の麻痺、言語障害、嚥下障害、そして最終的には呼吸筋の麻痺に至ることがあります。
また、ALSでは感覚(視力・聴力を含む)は保たれることが普通とされます。
一方で、認知・行動面の変化(前頭側頭型認知症など)を伴うケースが一定割合あることも知られているため、「知的機能は最後まで正常に保たれる」と断定せず、「保たれることが多いが例外もある」と理解するのが安全です。
原因の大部分は未だ解明されておらず、一定割合が遺伝的要因をもつ家族性ALS、残りが孤発性ALSに分類されます。
関連記事:ALSの症状とは?検査方法や治療法を解説
ALSの症状と進行のメカニズム
ALSの初期症状は人によって異なり、「箸が持ちにくい」「ペットボトルの蓋が開けられない」といった手足の筋力低下や、ろれつが回りにくいといったサインから始まるケースがみられます。
発症部位によって、手足から始まる「四肢型」と、話しにくさや飲み込みにくさから始まる「球麻痺型」に大別されます。
病状が進行すると、筋力低下と筋萎縮が全身に広がり、やがて自力での呼吸が難しくなることがあります。
これは、脳や脊髄にある運動ニューロンが障害され、筋肉へ指令が届きにくくなることに起因します。
現在のALS治療の標準とその課題
現在のALS治療は、病気の進行を緩やかにすることを目的とした薬物療法と、呼吸・栄養・リハビリなどの支持療法を組み合わせて行うのが中心です。
日本で疾患修飾療法として整理されている薬剤としては、リルゾール、エダラボン、高用量メコバラミンがあり、さらにSOD1遺伝子変異のALSに対してはトフェルセンが保険適用とされています。
エダラボンには点滴製剤に加えて、経口懸濁剤(内用薬)も承認されています。
これらの薬剤は進行抑制が期待される一方で、失われた運動機能を元どおりに戻すことは容易ではありません。
そのため、薬物療法と並行して、人工呼吸器による呼吸サポートや、栄養を補給するための胃ろう(PEG)などの支持療法が重要になります。
根本的な原因に働きかけ、失われた神経細胞を再生させる治療法はまだ確立されておらず、これが現在のALS治療が抱える大きな課題です。
最新のALS治療法と研究の進展
ALSの研究は進み、近年は日本でも新たな治療選択肢が追加されています。
特に、遺伝的背景に基づいた治療(例:SOD1-ALSに対する治療)や、臨床試験を通じた薬剤候補の検証が重要な潮流です。
ここでは、国内外の「承認薬」と「研究開発・治験段階」を分けて紹介します。
高用量メコバラミン(ロゼバラミン)の登場
日本では、高用量メコバラミン製剤 「ロゼバラミン®筋注用25mg」 が、ALSにおける機能障害の進行抑制を目的として2024年9月に製造販売承認され、2024年11月に発売されています。
SOD1変異のALSに対する核酸医薬:トフェルセン(クアルソディ)
SOD1遺伝子変異を有するALSに対しては、核酸医薬(アンチセンス核酸)であるトフェルセンが治療選択肢となります。
米国ではFDAが2023年4月25日にQALSODY(トフェルセン)を承認しています。
日本でも、2024年12月27日に「クアルソディ®髄注100 mg」(一般名:トフェルセン)が厚生労働省から製造販売承認を取得し、2025年3月19日の薬価収載され、薬価は100mg15mL1瓶 278万8883円です。
用法・用量は、「通常、成人には、トフェルセンとして1回100mgを1~3分かけて髄腔内投与する。初回、2週後、4週後に投与し、以降4週間隔で投与する」と定められています。
遺伝子変異を有するALS患者さんに対する新しい治療選択肢として期待されています。
トフェルセンは、SOD1変異によるALSの進行抑制を目的とした治療薬として、遺伝的原因を直接標的とする国内外で初めての承認例です。
iPS細胞を活用した「創薬」
iPS細胞は、ALS領域では特に 「患者さん由来iPS細胞で病態を再現し、薬剤候補を探索する(iPS創薬)」 という手法で臨床に近いところまで進んでいます。
例えば、パーキンソン病治療薬として知られるロピニロール塩酸塩は、医師主導治験の第1/2a相試験が実施されました。
試験では安全性と忍容性が確認されるとともに、病勢の進行抑制が示唆されるデータが報告されています。
白血病治療薬であるボスチニブの医師主導治験が進行しており、第2相試験で主要評価項目が達成された報告がでています。
※これらは研究・治験段階の取り組みであり、未承認薬・適応外使用を自己判断で用いることは推奨されません。
<瀨田院長執筆論文>筋萎縮性側索硬化症治療におけるヒト乳歯幹細胞由来培養液の安全性と有効性
iPS細胞を用いた「細胞移植治療」はどこまで進んでいる?
iPS細胞から神経系の細胞を作り、移植によって病態に働きかけるアプローチは、動物モデルなどで研究が進められており、可能性が示されています。
一方で、臨床で広く使える治療として確立するには、安全性・有効性・製造体制など、越えるべき課題が多いのが現状です。
海外の研究動向:AMX0035の状況について
海外では、AMX0035(米国名:RELYVRIO)が2022年9月にFDAの承認を取得しました。
しかし、その後に実施された第3相試験(PHOENIX試験)の結果などを踏まえ、アミリックス社は2024年4月、米国およびカナダ市場からの撤退方針を公表しています。
日本においては、2024年に承認された事実は確認されておらず、報道では同社が2024年に日本事業を終了したと伝えられています。
ALS治療法の治験と実用化までの流れ
ALSの新しい治療法が実際の医療現場で使われるまでには、「治験」と呼ばれる臨床試験を経る必要があります。
これは、その治療が本当に効果を持つのか、そして安全に使用できるのかを確認するための重要なプロセスです。
有望な新薬が開発されたとしても、すぐに広く使用できるわけではありません。
患者さんの体に直接作用する治療である以上、十分なデータをもとに慎重に検証される必要があります。
治験は段階的に進みます。
まず少人数で安全性を確認し、その後、より多くの患者さんを対象に有効性や安全性を検証していきます。
こうした積み重ねを経て、最終的に承認の可否が判断されます。
※なお、海外で承認された治療薬であっても、その後の追加試験の結果によって方針が変更されることがあります(例:AMX0035)。
日本国内で進行中の治験状況
日本国内でも、ALSに対するさまざまなアプローチの臨床研究・治験が行われています。
代表例として、
- iPS創薬で見出された ロピニロール塩酸塩 の医師主導治験(慶應義塾大学など)
- iPS細胞を用いたスクリーニングから見出された ボスチニブ の医師主導治験(京都大学CiRAなど)
といった取り組みが報告されています。
こうした研究は、「治る/治らない」と単純に結論づけるものではなく、進行の抑制や生活の質の維持につながる可能性について、科学的に検証していく取り組みです。
まとめ:ALS治療は「前進」している。まずは最新情報と専門医相談から
ALSは依然として完治が難しい病気ですが、進行を抑える薬や、呼吸・栄養・リハビリを含む支持療法の工夫によって、生活の質を保つ取り組みは前進しています。
国内ではリルゾール、エダラボン、高用量メコバラミンに加え、SOD1変異のALSには核酸医薬という新しい選択肢も加わりました。
さらにiPS創薬などの研究や治験も続き、海外では追加試験の結果で状況が変わる例もあります。
治療の適応や期待できる効果は病期や状態で異なるため、情報は更新されるものとして捉え、気になる点は早めに神経内科の専門医へ。
自己判断せず、一緒に方針を検討しましょう。
必要に応じて治験参加や支援制度の活用も相談できます。