
ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、発症から短期間で急速に進行するので、早期に発見して治療を始めることが何よりも大切です。
しかし、高齢になってから発症する方もいるため、初期症状ではALSと気づけないケースもあります。
そこで本記事では、ALSの初期症状を解説します。
ご自身やご家族が高齢で、ALSの可能性を疑われている方はご一読ください。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは?
初期症状について知る前に、まずはALS(筋萎縮性側索硬化症)がどのような病気なのかを知っておきましょう。
ALSは、手足やのどなどの筋肉が徐々にやせて、力が入らなくなる病気です。
筋肉がやせることによって身体を動かしにくくなったり、のどの筋肉に力が入りにくくなることで呼吸や発音がしにくくなったりなど、人によってさまざまな症状がみられます。
なお、主な症状が起きるのは筋肉ではあるものの、ALSは筋肉そのものの病気ではありません。
脳に「筋肉を動かせ」という命令を伝える、運動ニューロンという神経の障害によって起きる病気です。
ALSを発症する原因
なぜALSを発症するのか、その原因は現代の医学ではまだ解明されていません。
現段階の学説では、以下の要因が考えられています。
ALSの原因として主要な説
- 遺伝子異常
- 異常なタンパク質の蓄積
- 酸化ストレス
- グルタミン酸毒性
- ミトコンドリア機能不全
いずれの場合でも「このような行動をとったらALSになる」という原因が明確になっているわけではありません。
また、遺伝によってALSを発症することを「家族性ALS」といいますが、同じ家族性ALSでも日本と欧米で原因とされている遺伝子が異なるなど、まだまだ謎の多い病気です。
ALSの初期症状
ALSの進行は早いものの、いきなり目立つ症状が出てくるわけではなく、以下のような症状が初期にみられます。
ALSの初期症状
- 筋力低下や筋萎縮
- 線維束性収縮
- 筋肉の硬直やけいれん
筋力低下や筋萎縮
ALSを発症すると、手足などの力が入りにくくなる“筋力低下”および“筋萎縮”がよくみられます。
これは、運動をつかさどる神経細胞である“運動ニューロン”が障害されることによるものです。
脳から筋肉に命令が届かなくなることにより、筋肉が使われなくなってしまい、力が入りにくくなります。
初期の段階では、手足などの限られた部位でのみこのような症状がみられますが、病状が進行するにつれ、やがて全身へと広がり、いずれは日常的な動作が困難となります。
線維束性収縮
筋肉が勝手にピクピクと動く様子を皮膚の上から確認できる場合も、ALSの初期症状かもしれません。
これは“線維束性収縮”とよばれる症状で、運動ニューロンが壊れて一部の筋線維が異常に興奮することで引き起こされます。
ただし、線維束性収縮はストレスや疲労が蓄積されているときにも一時的に起きることがあるため、筋肉が勝手に動くからといってALSの初期症状であるとは断言できません。
筋肉のびくつきが長く続く場合や、並行して筋力低下が徐々にみられる場合はALSの可能性があります。
筋肉の硬直やけいれん
ALSの初期段階では、筋肉の硬直による「四肢や体幹がこわばる」「歩いたり動いたりしにくくなる」といった症状や、小規模なけいれんがみられることもあります。
場合によっては、就寝時に不快感を伴うため睡眠障害につながることもあるでしょう。
このような初期症状は、上位運動ニューロンが筋肉に送る抑制信号が失われ、筋肉が緊張状態となることで引き起こされます。
先に紹介した筋力低下や筋萎縮と並行して起きるため、少しでも違和感がある場合は早急に医療機関を受診することが大切です。
ALSの陰性症状
ALSは筋肉の動きが障害を受け、全身に不調が広がる病気ですが、ALSを発症しても末期までみられることのない症状もあり、これを“陰性症状”といいます。
陰性症状の具体的な内容については、以下の表をご覧ください。
ALSの四大陰性症状
膀胱直腸障害
- 膀胱や直腸の筋肉を動かす神経には影響がないことが多い
- 尿意や便意の感覚も残ったままなので、介助さえあれば用を足せる
- 眼球を動かす神経も、影響を受けないことが多い
眼球運動障害
- 会話が困難になっても、瞬きや眼球の動きで意思表示ができる
感覚障害
- 視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚などは障害されないことが多い
褥瘡(床ずれ)
- 寝たきりになっても、床ずれになりにくい
上記のような症状はほとんどみられないため、ALSを発症しても相手に自分の意思を伝えたり、映画鑑賞などの趣味を楽しんだりすることが可能です。
ALSの検査方法
ALSの初期症状が疑われる際は、脳神経内科で検査を受けることとなります。
ALSそのものを検査するのではなく、以下のような検査をいくつか実施し、検査結果や自覚症状などの情報から総合的に「ALSであるか否か」を判断します。
ALSの検査方法
- 針筋電図
- 血液検査
- 髄液検査
- 頭部MRI・脊髄MRI
- 末梢神経伝導速度検査
- 遺伝子診断
針筋電図
針筋電図は、細い針を筋肉に直接刺して、筋肉の電気的な活動を調べる検査です。
ALSを発症している場合は、明らかに筋力が低下しているわけではない筋肉でも、異常があれば検出できます。
初期症状がみられない手足や舌の筋肉でも異常の有無を判断できるため、早期の段階でALSを診断することが可能です。
血液検査
ALSが疑われる場合には血液検査も行いますが、たとえALSを発症していたとしても、血液に何らかの異常がみられるわけではありません。
では、なぜ血液検査を行うのかというと「今起きている不調はALSによるものなのか、それともほかの原因で起きていることなのか」を判断するためです。
つまり、ALSと似ている病気を除外するために行います。
髄液検査
髄液検査では、腰の背中側から針を刺して、髄液を採取します。
ALSを発症していたとしても髄液に異常がないことが多いですが、まれに髄液にあるタンパク質の値が上昇することがあるため、ALSが疑われる場合には髄液検査も行います。
頭部MRI・脊髄MRI
頭部MRIおよび脊髄MRIも、ALS以外の病気かどうかを判断するために行われます。
なぜなら、筋力低下は脳梗塞や脳出血、脊椎疾患などによっても起こるためです。
末梢神経伝導速度検査
末梢神経伝導速度検査は、手足にある末梢神経に電気刺激を与えることで、障害の有無を確認する検査です。
この検査もまた、ALS以外の病気の可能性を除外するために行われます。
ALSの場合は末梢神経に異常が起きていることはまれで、この検査で異常がみられる場合は“末梢神経障害”という別の病気の可能性があるためです。
ただし、一部のALS患者では、末梢神経伝導速度検査でも異常が確認できることがあります。
遺伝子診断
家族内で発症する“家族性ALS”の可能性を判断するために、遺伝子診断を行うこともあります。
とはいえ、家族性ALSを発症するのはALS患者の1割程度であり、多くは遺伝しません。
そのため「遺伝性の疾患なのか」を知りたいのであれば遺伝子診断を行うという選択肢もありますが、必ずしも受けなければならないわけではありません。
ALSの治療法
現代の医学では、ALSを根本的に治療する方法はまだ確立されていません。
以下のような治療を行い、ALSによる副次的な症状にアプローチするという方法をとることになっています。
ALSの治療法
- 再生医療
- 薬物療法
- 対症療法
- 手術療法
再生医療
再生医療は、人の細胞が持つ“再生する力”を使って、損傷した体の組織や機能を修復する医療技術です。
なかでも、さまざまな細胞に分化できる“幹細胞”の力を借りて回復力を高める治療方法が多くのクリニックで用いられています。
当院のALSの治療においては、細胞そのものは使用せず、点滴を用いて幹細胞培養上清液を全身投与することで神経の修復を促し、運動機能の改善を目指します。
また、幹細胞培養上清液を点鼻投与し、嗅神経を通じて治療成分を脳に直接届け、ALSによって低下した嚥下機能の回復を促すことも可能です。
薬物療法
ALSの進行を遅らせるために、リルゾールやエダラボン、高容量メコバラミンなどの薬剤が用いられます。
これらの薬剤ではALSの症状そのものをなくすことはできませんが、進行を抑制するはたらきがあるため、ALS患者の生存期間を延長させることが可能です。
特に、ALSを発症して間もない段階で、症状が軽症の患者に効果が期待できます。
対症療法
一般的な病院で、ALSの治療では、基本的に薬物療法と並行して対症療法を行うこととなります。
対症療法とは、ALSの患者様が感じる日々の苦痛を軽減し、生活の質(QOL)を保つことを目指す治療です。
先述の通り、ALSを根本的に治療することは難しいため、薬物療法と対症療法を行って、ALSによって生じる苦痛を少しでも取り除くことが大切なのです。
ALSの症状は患者様ごとに異なるため、症状に応じて適切な対症療法を行う必要があります。
たとえば、筋肉のつっぱりが目立つ場合は筋弛緩薬や漢方薬(芍薬甘草湯)を処方したり、マッサージを行ったりして違和感を軽減させます。
あるいは、痛みによる不眠や精神的な不調が目立つ場合は、睡眠導入剤や抗うつ薬を処方しつつ、カウンセリングを行うといった具合です。
手術療法
対症療法と同様に、QOLを保つ目的で、ALSによって起きている不調に対して適宜手術を行う場合もあります。
例として、呼吸に使う筋肉の力が低下して呼吸不全や窒息のリスクが高まっているケースが挙げられます。
このような場合は、気管切開や人工呼吸器の装着を行う手術が有効です。
また、嚥下機能の低下によって食事が難しくなった場合は、栄養補給のために胃ろう造設の手術を行うこともあります。
ALS患者へのケア方法
最後に、ALSの方に対して医療機関や介護施設などが行うケア方法を紹介します。
初期症状の段階では行わないものもありますが、症状の進行に合わせて心身をケアすることが大切です。
ALS患者へのケア方法
- リハビリテーション
- 心を落ち着かせるコミュニケーション
- 食事のサポート
- マッサージ
リハビリテーション
ALSによって身体機能が低下しても、すべての機能がすぐになくなるわけではありません。
残された機能の低下を防いでQOLを維持するために、リハビリテーションがとても重要です。
補助具の力を借りて、動かせる部位を最大限に動かしていくことで、日常生活のなかでできる動作が増えていきます。
なお、リハビリテーションを行う際のポイントは、疲れを残さないように取り組むことです。
ご家族で行う場合であっても、専門家のアドバイスをよく聞くことが大切です。
心を落ち着かせるコミュニケーション
ALSの症状が進行すると、会話でのコミュニケーションが難しくなります。
なぜなら、筋力の低下によって言葉を発せなくなることがあるためです。
また、呼吸が困難になってしまった場合は気管切開処置を行う場合があり、それによって会話ができなくなることもあります。
しかし、腕や手を動かせる場合は筆談でコミュニケーションを取れます。
また、五感は基本的に失われないため、音楽を聴いてリラックスしたり、味を楽しんだりすることは可能です。
ALSの患者様の多くは、ご自身の病状に対して不安やストレスを感じているため、このようにコミュニケーションの手段を工夫して心を落ち着かせることが大切です。
食事のサポート
ALSの進行によって、嚥下機能が低下して食事が難しくなっていきます。
また、腕の力が落ちて、食べ物を口に運ぶことも大変になっていく患者様もいらっしゃいます。
しかし、栄養を摂らなければ体重が減少し、その後の病状にさらに影響を及ぼすこともあるため、適切に食事を摂らなければなりません。
そのため、腕の力が衰えても食事できるように介助したり、柔らかく飲み込みやすい食事に工夫したりすることが大切です。
病状が進行して、柔らかい食べ物でも飲み込むのが難しくなった場合は、胃ろうの造設も選択肢に入ります。
マッサージ
ALSによる苦痛を緩和しつつ、安心感を与える手段として、マッサージを行うというものもあります。
体にやさしく触れてじっくりとマッサージすることで、患者様の精神的なリラックスにつながります。ALSの初期症状では、筋力の低下や筋肉のけいれんなどがみられる
以上、ALSの初期症状をはじめ、ALSに関するさまざまな情報をお伝えしました。
ALSの初期段階では、手足に力が入りにくくなったり、筋肉がこわばったり、躓きやすくなることがあります。
ほかにもいくつかの初期症状がありますが、いずれも運動ニューロンの障害によって引き起こされるものです。
ALSの治療は早期の開始が鍵を握るため、少しでも違和感があればすぐに医療機関を受診してください。
なお、ひとのわメディカルでは幹細胞培養上清液を使用した再生医療を提供しています。
ALSをはじめとする、さまざまな疾患へのアプローチが可能ですので、ALSでお悩みの方やご家族様は、ぜひご相談ください。